ヘラクレイトス【Herakleitos】
ヘラクレイトス(BC535年頃〜BC475年頃)
- 最終更新
- 2007-10-14T12:40:12+09:00
- この記事のURI参照
https://www.7key.jp/data/philosophy/herakleitos.html#what
ヘラクレイトスは、イオニア学派(アナクシマンドロスの対立と変化の考え方)とピタゴラス学派(ピタゴラスの調和の考え方)の両方の影響を受け、独創的な説を唱えたギリシャの自然哲学者。イオニア地方エフェソス市(現トルコ共和国)で最も古い王族の生まれと言われ、貴族階級に属していた。ヘラクレイトスの唱えた「万物流転の法則」は、後に弟子のクラテュロスを通じてプラトンにも大きな影響を与え、ヘレニズム時代にはストア学派の祖として評価されることとなった。
ヘラクレイトスはアルケーを火だと考え、万物は火から生まれてまた火にかえっていくと考えた。世界は諸々の対立しあうものが終ることなく闘争と和解を繰り広げる過程であって、その様を象徴的に「火」と表現している。燃焼は絶えざる変化であるが、常に一定量の油が消費されて一定の明るさを保ち、一定量の煤がたまるなど、変化と保存が同時進行する姿を示している。また「同じ川には2度入れない」とし、2度目に入る川は1度目の川と同じように流れてはいるが、実際は1度目より上流を流れていた水に入るわけで、入る人間自身も少し変化していると説いた。このように世界のあらゆるものは流れる川のように常に変化し、一瞬たりとも同じままでいることはない。あるものの消滅はその対立物の生成を生み出し、一切が相互循環的にたえず回帰し続けているのである。この過程をヘラクレイトスは「下り坂の道」と「上り坂の道」とも呼んだ。このような無限の往復過程をたどりつつ、万物は流転し続けると考えたのである。
同時に、このような一切の変化を含みながらも、その全体である世界は変化することによって安息しているとヘラクレイトスは考えた。あらゆるものにとって同一なこの世界は、誰か特定の神や人が作ったわけではなく、いつも生きている火として定量だけ燃えて定量だけ消えながら、今までもあったし現在もあるしこれからもあるだろう。このことを自然の法則(ロゴス【logos】:ギリシャ語で「言葉」や「法則」)とした。世界はロゴスによって決められただけ燃え、ロゴスによって決められただけ消え、永遠に変化し続ける「生きる火」だと説いた。ここで重要なのは、変化を無秩序なものとしたのではなく、ロゴスとの法則によって変化しているとした点である。
これらの説明についてヘラクレイトスは「戦い」の概念を用い、昼と夜・夏と冬・戦争と平和などあらゆるものはその対立物と争って、右に振れたり左に振れたりしながら変化して調和を保つと考えた。そもそもそれまでの世界観では、昼と夜や夏と冬などは別々の存在(対立物)であったが、ヘラクレイトスはそれらを同じ現象だとみなしたのである。例えば、昼は光がある状態で夜は闇のある状態なのではなく、光が減れば闇になるのであり、光が少い状態が闇を作り出し、光と闇を区別するのは人間の勝手な解釈だと考えた。そこで「戦いは万物の父である」とし、対立と調和の法則、つまりその争いを引き起こしているのがヘラクレイトスの言うところのロゴスなのである。つまり、これらの考え方におけるアルケーの概念はタレスなどのアルケーとは異なり、またこの「生成」の思想は、パルメニデスの「存在」の思想と対立するものとして見られることもある。
更にヘラクレイトスは、ロゴスに従って生きる術を身に付けるのが肝要だとも説いた。自然に暮らして不自然なことはするなと警告し、「目に見える調和より、目に見えない優れた調和がある」とも言っている。また、人間が見ているものは変化しているうちの一瞬にすぎないのに、人間はその一瞬を固定的で不変的なものと見なすとし、そのような態度は愚かだと厳しく指摘した。
ヘラクレイトスの言葉
- ロゴスはこのようなものとしてあるが、人間はそれを理解しない。(断片1)
- 共通なロゴスに従うべきなのに、ほとんどの人間は自分だけの智に頼って生きている。(断片2)
- 互いに異なるものからもっとも美しいものが生じる。万物は争いより生じる。(断片8)
- 評判の高い賢者であっても、自身の考えに固執している。(断片28)
- あらゆるものを犠牲にしても、たった1つのもの――死すべき事物に変えて不滅の誉れを選ぶ人が最も優れている。(断片29)
- 智を愛する人は、実際多くの事柄の探求者でなければならない。(断片35)
- 博識は分別を教えない。(断片40)
- 一番大切な事柄について、いい加減な当て推量は控えよ。(断片47)
- 火は土の死により、空気は火の死により、水は空気の死により、土は水の死による。(断片76)
- 私は自分自身を探求した。(断片101)
- 大多数は悪党であり、優れたものは少数。(断片104)
- 健全な思慮こそ最大の能力であり智慧である。それは事柄の本質を理解しながら、真実を語り、真実を行うことである。(断片112)
- 思考は全てのものに共通のものである。(断片113)
- 魂には、自己を増大させるロゴスが備わっている。(断片115)
- 自己認識することと思慮を健全に保つことは、全ての人間に許されている。(断片116)
- 乾いた魂は、最も賢く優れたものである。(断片118)
- 人間の運命は、その人柄が作るものである。(断片119)
- 自然は隠れることをこのむ。(断片123)
- 万事に渡り、運命による定めがある。(断片136)
- 神にとっては全てが美しくて、良くて、正しい。ただ人間が、あるものは正しく、あるものは正しくないと思うだけである。
その他
- ヘラクレイトスは非常に気性の激しい人であったようで、晩年は人間嫌いが嵩じて、人里はなれたところで山篭りをしながら暮らしたと伝えられている。
- 脈絡のない格言風の散文で書かれたその哲学は難解で謎めいていたため、当時は「闇の人」や「謎をかける人」、「泣く哲学者」などと呼ばれていた。
- 著書といわれる『自然について』は現存せず、引用によってのみ断片が伝わる。この書は『万有について』『政治について』『神学について』の三書を総合したものであったとされる。また「万物は流転する【パンタ レイ:Παντα ρει.】」が有名な言葉だが、これはプラトンが引用している言葉であり、実際のヘラクレイトスの著作断片にこの言葉は見つかっていないため、後世の人が作った言葉であるともいわれている。
- 父親はプロソンまたはヘラコンとされる。
- 政治に関しては民主制を軽蔑し、貴族制の立場を取っていた。友人のヘルモドロスがエフェソスの民衆によって追放されたことに怒り、政治から手を引いたとされている(断片121:エペソスの一人前の大人達は全員首をくくって死んだ方がよい。そして、国を子供たちの手にゆだねればよい。ヘルモドロスのような最も有能な男を追放したのだから)。ディオゲネス・ラエルティオスによれば、のちにエフェソスの住民は国法の制定をヘラクレイトスに委託したが、ヘラクレイトスは友人を追放したエペソスの国制を悪しきものとみて、かかわることを拒否した。そしてアルテミス神殿に退いて子どもたちとサイコロ遊びに興じたため、人々が不審に思い理由を尋ねると「おまえたちと政治に携わるより、このほうがましだ」と答えたといわれている。
- 水腫を患ったが医者に見せることを拒み、自分で治療を試みたが死んだと伝えられる。
- ヘーゲルなどの思想の源流として、弁証法の始まりを担う人としても考えられている。
- 「万物は一である」とも「一から万物が生まれる」とも述べ、哲学史上初めて「根源的な一者」と「多くの表面的なもの」との関連を打ち出した人物としても注目されている。
このページに関するご案内
-
この文書は
Keyから
資料集、
哲学、
古代哲学とリンクを辿ると、当ページ
ヘラクレイトスに辿り着きます。
- Site mapよりこのサイトの全体的な構造を把握できます。
- 索引よりこのサイト内にある任意のキーワードを含んだ文書を探すことができます。
- この文書のURIは
https://www.7key.jp/data/philosophy/herakleitos.html
です。
Copyright (C) 2007 七鍵 key@do.ai 初版:2007年10月04日 最終更新:2007年10月14日